ERC-4626 が登場する前、Ethereum の利回りボールトはそれぞれが独自の方言を話していました。あるボールトは関数にある名前を付け、別のボールトはシェアの価値を違う方法で計算していました。それらに対応したいレンディング市場やアグリゲーターは、ボールトごとに新しいコードを書いて監査する必要がありました。2022年に確定した ERC-4626 は、ボールトに共通の言語を与えました。
規格が定めていること
ERC-4626 のボールトは、ドルトークンのような原資産を1種類保有し、それ自体が ERC-20 トークンであるシェアを発行します。規格は、すべてのボールトが備えるべき関数を定めています。
- deposit と mint:資産を入れてシェアを受け取る
- withdraw と redeem:シェアをバーンして資産を取り出す
- totalAssets:ボールトが保有している、または受け取る権利のあるすべての資産を報告する
- convertToShares と convertToAssets:現在のレートで両者を換算する
- preview 系と max 系の関数:トランザクションを送る前に、それが何をするのか、どこまでの規模が可能かを示す
シェアの価値が増える仕組み
交換レートは、総資産を総シェア数で割ったものです。あるボールトが1,000,000のドルトークンを保有し、1,000,000シェアを発行しているとすると、1シェアは1トークンに相当します。ボールトの戦略が20,000トークンの収益を上げると、シェア数は変わらないまま総資産は1,020,000に増え、1シェアは1.02トークンの価値になります。新たに1,020トークンを入れる保有者は1,000シェアを受け取ります。誰のシェア残高も変わっていませんが、収益が出る前からシェアを持っていた全員が得をしています。これが、多くのボールトトークンが採用している非リベース型の設計です。
規格が重要な理由
準拠したボールトはすべて同じ問いに同じ方法で答えるため、ひとつの統合ですべてに対応できます。レンディング市場は convertToAssets を読み取ることでボールトシェアを担保として受け入れられ、利回りトークン化プロトコルはシェアを元本部分と利回り部分に分割でき、ウォレットは保有者の価値を原資産建てで表示できます。これが実践におけるコンポーザビリティです。規格によって、ひとつのプロダクトがほかのプロダクトの構成要素になります。多くの利回り付きドルトークンがこの規格の上に作られています。
リスクと限界
共通のインターフェースは、ボールトが資産で何をしているかについては何も語りません。2つの ERC-4626 ボールトがウォレットからはまったく同じに見えても、抱えるリスクは大きく異なることがあります。知られている落とし穴には次のようなものがあります。
- シェア価格の操作。新しく、ほとんど空のボールトでは、攻撃者が資産を寄付してシェア価格をつり上げ、次のユーザーのシェアがほぼゼロに切り捨てられるようにできます。いわゆるインフレーション攻撃です。慎重なボールトは、仮想シェアや初期シードによってこれを防いでいます。
- 端数処理。規格はボールトに有利な方向への端数処理を求めています。これは既存の保有者を守りますが、統合する側を驚かせることがあります。
- シェアの価値を価格として読むこと。ボールトの総資産が1つのトランザクション内で動かせる場合、convertToAssets を直接信頼するレンディング市場は悪用される可能性があります。堅牢なオラクルのほうが安全です。
- 退出の制限。ボールトは出金に上限を設けたり遅らせたりでき、max 系の関数がその内容を報告します。
ボールトのコードの監査は、インターフェースへの準拠よりも多くのことを教えてくれます。その両方を確認し、ボールトが実際に何を保有しているかを読みましょう。
よくある質問
ERC-20 と ERC-4626 の違いは何ですか?
ERC-20 は、残高と送金を扱う代替可能トークンの基本規格です。ERC-4626 はその上にボールト向けの仕組みを加えたものです。シェアは ERC-20 トークンであり、規格はそこに資産の出し入れや、シェアと資産の換算のための関数を追加しています。
ERC-4626 ボールトでは、利回りはどのように表れますか?
交換レートを通じて表れます。ボールトが収益を上げると、シェア数は変わらないまま総資産が増えるので、1シェアをより多くの原資産に換算できるようになります。あなたのシェア残高は変わりません。
ERC-4626 ならボールトは安全ですか?
いいえ。規格が標準化しているのはインターフェースであり、戦略やコードの質ではありません。準拠した2つのボールトが大きく異なるリスクを抱えていることもあるため、戦略、監査、シェア価格の操作に対するボールトの防御は、引き続き確認が必要です。
関連用語
ボールトトークン
ボールトトークンとは、スマートコントラクトが管理する資産プールに対する持ち分です。ボールトが収益を上げると、保有者の残高は変わらないまま、1シェアあたりの原資産の価値が増えていきます。そのため、ほかのプロトコルにとって保有や追跡がしやすいトークンです。
DeFiのコンポーザビリティ
コンポーザビリティとは、DeFi のプロトコル同士が積み木のようにつながり、あるプロトコルのトークンを、誰の許可も得ずに別のプロトコルの担保、流動性、利回りの源泉として使える性質のことです。トークンにできることを大きく広げる一方で、プロトコル同士のリスクも結びつけます。
利回り付きドルトークン
利回り付きドルトークンとは、裏側にある戦略のリターンを保有者に届けるドル建てトークンで、多くの場合、時間とともに1トークンあたりの価値が増えていきます。リターンの源泉は国債、レンディング、トレーディング戦略などで、その利回りは変動します。
利回りトークン化
利回りトークン化とは、利回りを生むトークンを2つに分けることです。決められた満期に原資産と交換できる元本トークンと、それまでの変動利回りを受け取る利回りトークンです。この2つを取引することで、一方の参加者は固定レートを確定でき、もう一方は将来の利回りを引き受けることができます。
出典
- EIP-4626: Tokenized Vaultseips.ethereum.org
- ethereum.org: ERC-4626 tokenized vault standardethereum.org
- EIP-20: Token Standardeips.ethereum.org
Tori Finance チームが執筆しました。投資助言ではありません。利回りは変動し、元本を失うおそれがあります。